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『菜根譚』は17世紀の初め、いまから400年ほど前に洪自誠によって書かれた。「敵を知り己を知れば百戦危うからず」で有名な『孫氏』の兵法や、儒教の源になった『論語』などはいずれも紀元前に書かれたものだから、古典といっても中国では比較的新しい。 野草や植物の根といった、粗末な食事をしながら、人のありよう、リーダーの心得を語っていく。1人1人が個人事業主で、弱肉強食のプロ野球を生業にしてきた私にとって、実際に歩いてきた人生と相容れない内容のものがあるのも事実である。その一方で仕事や勝負に通じる金言も多い。たとえば、
得意のときに、すなわち失意の悲しみを生ず (前集五八)
連勝の絶頂にあるときに、すでに連敗の原因が奥深くで生まれている。「連勝」を「優勝」に言い換えてもいい。勝っているときにはどこかで無理をしていても、勝利の余韻に覆い隠されてしまう。だが無理はどこかで表に出てくるものだ。 あとで知ったことだが、巨人を9連覇に導いた川上哲治さんも『菜根譚』を愛読していたそうだ。

この本は野村克也さんが野球人生で得た経験を元に「菜根譚」を独自に解釈をした内容になっている。とても心に響く言葉が多い。たとえば「才能が豊かでも、人徳が備わっていなければならない」の解釈では、「名選手、名監督にあらず。野球に限らず、スポーツの世界ではよく言われることだ。才能にあふれ、立派な成績を残した選手が、いざ監督になると、まるで輝かしい経歴が邪魔をしているかのように選手を導けない。こんなことはよくある——」とある。「人徳は、才能の主人である。才能が豊かでも人徳が備わっていなければ、家に主人がおらず、使用人が好き勝手に動かしているようなものだ」と続く。この言葉はとても深いと感じさせられた。人の上に立つときに必要なものが人徳だとよくわかる話だ。
他にも、「人目につかない所で徳を積めばいつか何倍のもの利益になる」の解釈は、「1977年に南海の兼任監督を解任されたあと、ロッテ、西武で3年間現役を続けたあとで引退した——」「遠回りでも、人目につかなくても、自分らしさを追い続けることが、いつか何倍もの利益になることがあるものだ」という。

野村克也さんの人生観、野球観が存分に披露されている本書はとても興味深い本だった。メディアでみる野村克也さんは「ぼやきのノムさん」で親しまれた人というイメージが強いが、本書を読むことで「知将」「頭脳派」といわれる所以がわかる。人生について、どう生きればいいか迷い悩んだとき、この本を読むことで何かしらの答えが得られるかもしれない。
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