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はじめに 疲れている、私たちの脳
「やらなきゃいけないことがたくさんあるのに、うまく集中できない」「十分寝ているのに、疲れがとれない」「なんだかイライラして、最近人の悪口ばっかり言っている気がする」——もしかしたら、それは脳の疲れのせいかもしれません。でも、「脳が疲れている」と言われても、ピンと来ない方のほうが多いはずです。「だって、仕事はちゃんとできているし」「日中にしょっちゅう、眠くてたまらなくなるわけでもないし」「健康診断だって、問題ない」そう、身体は元気なんです。けれども、脳は疲れているというのが、私たち現代人の姿です。お気づきでしょうか?
川野泰周
精神保健指定医・日本精神神経学会認定専門医・医師会認定産業医。RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック副院長。1980年生まれ。2004年、慶應義塾大学医学部医学科卒業。臨床研究終了後、慶應義塾大学病院精神神経科、国立病院機構久里浜医療センターなどで精神科医として診療に従事。 11年より建長寺専門道場にて3年半にわたる禅修業。14年末より横浜にある臨済宗建長寺派 林香寺住職となる。現在、寺務の傍ら都内及び横浜市内にあるクリニック等で精神科診療を行っている。 うつ病、神経症、PTSD、睡眠障害などに対し、薬物療法と並びにマインドフルネスの実践を含む心理療法を積極的に取り入れた診療に当たっている。

歩いて始めるマインドフルネス
さて、「マインドフルネス=瞑想=呼吸のこと」と思っている方は多いのではないでしょうか。確かに、具体的なやり方としてよく知られているのは(歩く瞑想よりも)呼吸瞑想かもしれません。ただ、「どうも呼吸瞑想のコツがつかめない」という人は多いのです。じつは、呼吸瞑想よりも、歩く瞑想「マインドフル・ウォーキング」のほうが、ずっと簡単です。
歩いていると瞑想状態になりやすいのは、僕自身も感じています。歩いていると景色も変わるし、五感を刺激されるので気持ちが良くなります。呼吸瞑想はその場でやる瞑想なので、眠たくなるように感じます。だから僕は歩く瞑想のほうがいいと思います。
歩いているときに脳で起きていること
歩けばスッキリ、脳の疲れがとれて、心が軽くなる。ここまでなら、経験的に納得してもらえる部分も大きいのではないでしょうか。しかし最新の脳科学は、単純な「気分転換」に終わらない、マインドフル・ウォーキングの驚くべき効果を明らかにしました。例えば、うつの改善です。脳内で分泌され、脳細胞に栄養を与える、BDNFという非常に重要なタンパク成分が知られています。このタンパク質は、脳細胞の保護と回復をつかさどり、これが不足するとうつを引き起こすとされているのですが、歩行やスロージョギングはそのタンパク質の分泌を促すというのです。
BDNFは頭を良くする成分とも言われています。頭を良くしたかったら歩くことがいいというのは、よく知られています。僕自身、歩く習慣を持つようになってから頭の回転が速くなりました。そしてさらに、今より頭を良くしたいと思っているので、これからも歩き続けたいと思っています。
性格は変えられる、トラウマも消せる
心理学では「気質+性格」によって人格が成り立っていると考えられます。気質は親から与えられたものであり、生まれ持ったものです。几帳面な家系もあれば、短気な家系もあるでしょう。これはなかなか変えられません。いっぽう性格は、気質に根差しながらも、育った環境や体験によって、後天的に作られてゆくものをいいます。(中略)さて、後者の性格のほうは、マインドフルネスによって塗り替えるいことができます。親から授かった気質が人格に影響することは間違いないですが、性格の部分は、もう一度作りなおせるのです。
僕は歩く習慣を持つようになってから、性格が変わりました。内向的で人との関りが苦手だったのが、外交的になり人との関係に余裕を持って接することができるようになりました。歩く習慣によって自分に自信が持てるようになりました。また、歩くことによってストレスを解消することもでき、以前より穏やかな性格になりました。歩くことで性格を変えられるというのは事実です。

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