まえがき
精神科医という仕事や、高齢者医療などをしていると、多くの人が、自分ができないこと、できなくなったことで悩むことが多いことがわかります。たとえば、精神科医としてであれば、対人関係がうまくいかない、コミュニケーション能力が低い、気分の波がはげしく落ち込んでいるときは仕事ができない、などです。 高齢者は、徐々にできないことが増えていきます。とくに認知症を患うと、これまでできていたことができなくなった、などということで進行していきます。これに対して、わたしはときどき、「パラリンピックの発想をもったら」というようなアドバイスをします。パラリンピックというと、障碍があっても頑張ってスポーツをやっている、という見方をされることが多いようです。でもたとえば、車いすテニスの国枝慎吾さんに、肢体不自由のない素人がテニスをやって勝てることはまずないでしょう。要するにパラリンピックの選手になるような人は、ハンディキャップを克服しようと頑張っているのではなく、「自分の得意なこと」を見つけて、それを最大限に伸ばしているのです。できないことがあっても、できることを思いきり伸ばせば世間どころか、世界が認めるのです。
本書の著者 和田秀樹 1960年大阪生まれ。東京大学医学部卒。東京大学医学部付属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学学校国際フェローを経て、現在は精神科医。立命館大学生命科学部特任教授、一橋大学経済学部非常勤講師、東京医科歯科大学非常勤講師、和田秀樹こころと体のクリニック院長、川崎幸病院精神科顧問。
この本は和田秀樹さんの精神科医としての経験から、できないことに悩むより、自分にできそうなことを伸ばしていったほうが、人生がハッピーなります、というテーマで語られています。僕自身が本書のなかで気になったところを3つ紹介します。

なぜ人は「できないこと」にこだわるのか?
人は自分にないものや未開拓の領域に対して、強い興味を持つことがわかっています。心理学的に分析すると、人は未知のものに惹かれる性質があり、自分にできないこと・自分にないものほど欲しくなります。お金がないとお金持ちに憧れますし、ピアノが下手なら上手な人を、絵心がない人は絵が上手な人を、勉強ができない人は勉強ができる人をうらやみます。人は「ないものねだり」の性質があり、隣の芝生ほど青いものはありません。(中略)しかし、あなたが本当に自分らしく生きたいのであれば、目を向けるべき対象は「自分のできないこと」でも「他者のできること」でもなく、「自分ができること」です。
他人を見て憧れるとき、自分にはとうていできないことだったり、持っていないものだったりする。「ないものねだり」の性質というのは子供の頃から大人になってもなくならない。自分ができることは、それほど価値がないように思ってしまうこともある。しかし、自分ができることは、他人にとってできないこともある。自分では当たり前のようにできることが、他人に憧れられていることもある。だから自分ができることに自信を持ちたい。
弱点を克服するより強みを生かすほうが成功しやすい
生まれ持った才能に専念して、大きな成功を収めた人間をひとりあげるなら、やはりそれは大谷翔平選手ではないでしょうか。規格外の身体能力・スキル・努力と練習によって、MLBでも類をみない投打の二刀流で成功し、歴史的な偉業を次々と更新しつづける唯一無二の選手です。(中略)知識やスキル、練習は、強みを育てるためには不可欠ではありますが、才能をあらたに身につけるのは難しいでしょう。(中略)もしも大谷選手が野球ではなく、水泳や卓球だったら唯一無二の選手になっていたかどうかわかりません。
何かの分野で成功するのは、いち早く自分の得意なことを見つけることであり、才能に気づくこと。それが見つかった人は幸運な人生をおくることができる。でも、大抵の人は自分にとってどんな才能があるのかわからないと思う。だから才能や得意なことが見つかるまで、いろんなことを試す必要がある。試すことで自分の適性がきっと見つかると思う。

自分の得意分野を見つける方法
わたし自身、ピカソのような天才ではありませんが、1つのことにじっと集中しているのが苦手な一方、強い興味を持ったことにはものすごい集中力を発揮します。ADHD(注意欠如・多動症)や自閉症スペクトラム障害を抱えもって育ってきた人間ですから、ピカソのことはよく理解できます。ピカソは、1つの技法に満足せず、短期間で次々と新しい表現に挑戦しました。ADHDにせよなんにせよ、どんな強みも個性も環境次第で「障害」になることもあれば「才能」として開花もするのです。
自分にとって欠点だと思っていたことが、環境次第では「才能」という特技になることもある。長所も短所もコインの裏表にすぎないということ。自分の欠点はある場面では長所になるとわかっていれば、欠点があることにそれほど落ち込む必要はないと思えた。
本書を読み終えると、自分の「できること」に対してもっと自信をもっていいことがわかる。「できないこと」というのは誰にでもあるし、そこにこだわりすぎる必要もない。それよりも、「できること」を積極的に伸ばしていくことで人生がより豊かになり、幸せになることが出来る。
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